…* The Cause of Santa Claus 5 *…
人の宴に幕が降ろされ
街があくびをかみ殺したら
めくるめく
猫の宴の火蓋が切られる。
人っ子一人いなくなった教会に
待ってましたとばかり、今度は猫が集まってきた。
一匹、一匹、また一匹。あっという間に猫でいっぱい。
教会が徐々に猫で埋め尽くされていくその様はかなり壮観。
誰も知らない、誰にも秘密の、猫のパーティーの幕が上がる。
例年はデュトロノミーの挨拶があって、それがパーティー開始の合図になる。
でも今年はお風邪をめされて寝込まれて、パーティーにはお出にならない。
ジェニエニドッツが看病してくれてるけど、もう何日になるだろう。
おれがお見舞いに行った時には、優しく頭を撫でてくださった。
早く良くなりますように。
* * *
「よっ!」
宴もたけなわ、大人たちが程よく酔って、
子猫の瞼が重たくなってきた頃に。
タガーが教会にやってきた。
と言っても、こいつは街一番のひねくれ子猫。
万一来なかったとしても、それほど不思議ではないか?
「なーんだ、もうごちそう殆ど残ってねーじゃん」
…いや、お祭りは好きなんだ。
ただ、皆と一緒は気に食わないとか、何かの拍子に漏らしてたっけ。
自分だって本当は、イレギュラーなコトが大好きなくせに。
「つまんねーの」
皆の輪から一人離れて、オルガンの上に寝そべって。
でも垂れ下がった尻尾だけは、楽しげにゆらゆらとリズム刻んで揺れている。
「なぁ、ホントに今夜やるのか?」
タガーを追ってオルガンの上によじ登り、声を潜めて訊いてみた。
「とーぜん」
頬杖ついて寝そべって、顔は皆の方を向いたまま
瞳の奥だけキラキラさせて、タガーが答えた。
「マンカスもやるだろ?」
「…あぁ」
ホントはあまり…いや、全く、と言っていいほど
気は進まないけれど。でも一度約束した事だし。
それにこいつを一人にしたら、一体何を仕出かすか
分かったもんじゃないし。
…それにちょっと、サンタを見てみたい気もするし。
それっきり、何も話さず
二匹並んで、宴の中心を眺めるともなく眺めてみた。
飲む猫、歌う猫、踊る猫、食べる猫。皆、心底楽しそう。
…こいつは今、何を思いながら、この光景を眺めているんだろう。
少し醒めた眼。持て余した尻尾。微かに笑みを浮かべた口元。
こいつのことはおれが一番良く知ってる筈なのに、
おれが一番近くにいるはずなのに
時々、こいつが凄く遠い。
それがひねくれ子猫のひねくれ子猫たる所以、
というものなのだろうけれど。
時々、それが少し寂しい。
「…なぁ」
「んー?」
「来るかなぁ…」
「来るさ」
言ってタガーは、よっ、とオルガンの上から飛び降りた。
「どこに行くんだ?」
「ジェニエニんとこ行って、ごちそー残ってないか訊いてくる。
あと、今夜はここに泊るから。んじゃ」
宴の喧騒はまだまだ続く。
例の噂はあれっきり、うんともすんとも聞いていない。
サンタは来るのか来ないのか。正直自信は無いけれど
タガーが言うなら、きっと来る。
今夜は、長い夜になりそうだ。